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 箕面の森アートウォーク2015 について
 中谷 徹 箕面の森アートウォーク2015
プロデューサー




 箕面は、古くから大滝と紅葉で知られ、年間200万人もの人々が訪れる北摂屈指の観光地です。アートウォークが開かれる滝道には、1350年もの長い歴史があります。古くは、658年、役行者が大滝のもとで修行をしたと言われています。以来、滝道は人々の往来が頻繁にあり、また、西江寺、瀧安寺など歴史的な建造物もあり、もはや箕面はまったくの原生的自然ではなくなっています。人間の営為が加わった自然なのです。つまり、文化的、歴史的な意味を担った自然(二次的自然)と言えます。そうした長い歴史に支えられた、人間と自然の豊かな関係において拓かれた滝道に美術作品を設置することは、美術の視点においても、観光の視点においても意義のあることです。

 近年、観光地ではニューツーリズムとして、新たな観光分野が創出されています。エコツーリズム、グリーンツーリズム、アートツーリズムなど、これらの新しい分野に通底しているのは地域独自の魅力を生かした地域密着型・体験型・交流型観光を目指していることです。観光事業のあり方は、風景や景観の美しさに価値をおくことから文化や歴史的背景に価値をおく、持続可能な観光へと方向転換しつつあります。このことは、私たちが目指すアートのあり方と新しい観光事業の動きとが、まったく符合するのです。

 イベント会場としての滝道は近年よく芸術祭が催されている過疎地、観光地と異なり、ビジネスが衰退しているわけでも、再生を必要としているわけでもありません。私たちは、そういった町興し的な視点ではなく、年間200万人もの人々が訪れるこの観光地で来訪者に現代アートに触れていただき、箕面の風景や景観の美しさはもちろんのこと、その背景にある箕面の文化をアーティストの視点で、明治の森箕面国定公園を紹介したいのです。

 しかしながら、「場」としての滝道は、よく知られた観光地であり国定公園であるがゆえに、作品の展示およびパフォーマンスのための「場」は予め用意されていないのです。アーティスト自らが店主や管理者にプレゼンテーションを行い、会場獲得に努めなければなりません。参加アーティストは、多くの観客に恵まれていますが、多くの制約の下、作品を制作しなければなりません。そのためにアーティストは、より高い力量とより完成度の高い作品が求められます。

 本イベントでは、関西を中心に活躍している現代アーティストを招待し、箕面の自然・歴史的建造物・史話・施設などをテーマにしたサイトスペシフィックなアート作品を阪急箕面駅から大滝に至る滝道沿いやその周辺の施設や店舗などに、設置します。また、サイトスペシフィックなダンスパフォーマンスや、ワークショップなども企画しています。

 サイトスペシフィックアートは、文字通り設置される環境や文化、歴史そしてそこに関わる地域の人々の生活を反映した作品を指します。その地域の人々の生活に密着し、現代アートの仕掛けによって来訪者(観光客・観客)が箕面の歴史、文化(風土)とかかわり、風景の再発見に繋がる、そういったアートイベントを企図しています。

 人々の意識は、一昨年の箕面の森アートウォーク2013のテーマ「つながる視点」から今年のテーマ「はぐくむ視線(まなざし)、うまれる造形(かたち)」へと大きく拡がりを見せています。地元の方々の理解と協力を得ることにより、点がつながりより大きなネットワークが形成されています。滝道という舞台で新しい箕面の物語が語られようとしています。

 

 

「場」の創造
 加藤 瑞穂 大阪大学総合学術博物館招へい准教授・近現代美術

 

 滝と紅葉で知られる箕面を舞台に今秋開かれる「箕面の森アートウォーク2015」は、サイト・スペシフィック・アート(site-specific art)を標榜しているという。サイト・スペシフィック・アートとは、作品が設置される場所や環境の特性を生かした美術を指すが、それが作家たちによって自覚され、手掛けられるようになったのは1960年代にまで遡る。第二次世界大戦後にモダニズム志向が極限まで追究された結果、いわゆるミニマル・アートが出現し、時を経ずしてコンセプチュアル・アート、プロセス・アート、ランド・アート、ハプニング等、それまでの美術のあり方自体を見直す様々な潮流が並行して生まれた。その中で、美術館や画廊といった既存の枠組みは決して自明でなく、あくまでも一つの制度として認識されるようになり、美術活動や作品は、そのような制度から解放された生活空間、いいかえれば非美術的な「場(site)」へと拡大していったのである。

 日本でその先駆的作例を考えると、やはり最初に挙げるべきは、戦後の前衛美術史ですでに世界的に重要性が認められている具体美術協会(具体)の実践であろう。阪神芦屋駅南側の芦屋川東岸沿いに広がる約3700坪の芦屋公園で、1955年は芦屋市美術協会の主催で「真夏の太陽にいどむ野外モダンアート実験展」、1956年は具体の主催で「野外具体美術展」が開かれ、それぞれの展覧会で具体メンバーは奇想天外な作品を多数発表した。松の大木が不規則に点在する公園内に設置された作品群は、周囲の環境を作品成立のための主要素とした点が特徴的であった。

 ごく一例を挙げれば、5センチ幅の青い縁取りのある10メートル四方の鮮明なピンクの人絹を地上から30センチの高さに張った田中敦子の作品は、わずかな風にもはためき、光を反射しながら表面が波打って、絶え間ない形状の変化を見せた。あるいは、多彩な色水を入れたポリエチレン製のチューブ状シートを、ハンモックのように松林の枝に張り巡らした元永定正の作品《水》も、風で揺れるたびに透過光・反射光のきらめきが生まれると共に、時間の経過に伴ってそれらの光や地面におちる影の様相が移り変わるインスタレーションであった。松の枝から木製の額縁だけを一本の糸でつり下げた村上三郎による《あらゆる風景》も、額縁が常に動き回転するため、切り取られる風景は一時も同じではなかった。そのほか発光する作品が多かったのも、夜間に見られるという状況を考慮に入れた故にほかならない。

 また、鑑賞者に積極的に身体を動かすよう働きかけることで、日常では意識しないものの見方や感覚に気づかせる作品が多かった点も重要である。100メートル以上の細長い白ビニールシートに靴の跡を延々と印し、松林を縫うように敷いて最後は松の木の上へと達する金山明の《足跡》は、足跡を追って会場を歩くという行為を通して、移動に伴う距離や空間の広がりを鑑賞者に気づかせた。あるいは、足で踏むとへこむ板から成り、そのへこみ具合が一つ一つ異なる嶋本昭三の《この上を歩いて下さい》は、ふだんの生活では避けられるべき不安定な状態をあえて体験させる装置であった。

 箕面でもこのような試み、すなわち空気、光、樹木、大地、水などの自然環境の特性を改めて見つめるように来場者を導く「場」、あるいは身体全体を通して「いまここ」でしか体験できない感覚を呼び覚ますといった「場」が実現されることを期待している。それは、解説書をなぞるだけの受動的な観光に終らない、来場者一人一人が箕面ならではの環境を再発見し、その風景に折込まれた歴史的な時間の蓄積に思いを致す好機になる。その実現の度合いこそが、美術作品としてのサイト・スペシフィック・アートの質を決定づける核心ではないだろうか。



 


箕面の森アートウォークロゴマークについて



 

 光の三原色から変化させた、それぞれの色に意味を持たせました。
赤=アーティスト、緑=場(箕面の地)、青=コミュニティー、また、それと同時に、箕面の森を三次元的にも表したデザインになっています。
 赤=紅葉の箕面、緑=新緑の箕面、そして青=渓谷から仰ぎ、木々の隙間から見える青い空と、流れ(落ち)る水(=滝)です。アーティスト(赤)×コミュニティー(青)×箕面の地(緑)、この三つが交差する(交わる)「箕面の森アートウォーク」。

 それぞれの色が影響し合い別の色が生まれ、すべてが重なる真ん中の白。そこには、どんな色が生まれるのか? その場で目撃していただきたい。

デザイン:わにぶちみき、橋本修一



テーマ俳句: 新秋の滝きらめいて呼んでいる

箕面の森アートウォークでは橋本亭まるごと美術館としてスタートした2009年から、
毎回のサブキャッチを兼ねた俳句を梶山尚星氏にお願いしてきました。

梶山尚星
平明にしてさわやかな詩情と現代感覚豊かな俳句を創作。
俳誌『七星』を主宰。
 
     

主催:箕面の森アートウォーク2015実行委員会  
総合プロデュース:コンテンポラリーアートギャラリーZone
後援:大阪府、箕面市、箕面市観光協会  
協力:メイプルハーツ箕面公園管理事務所、NPO法人みのお山麓保全委員会、賃貸住宅サービス、大江戸温泉物語 箕面観光ホテル
助成:日本万国博覧会記念基金