EXHIBITIONS

2011年6月18日(土)〜6月30日(木)
橋本修一の風景画展「風景浴『山の時間』」
Shuichi Hashimoto Landscape Exhibition

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ただそこにある風景に出逢うためだけに山へ登る。

今と言う時間の中でしか出逢えない風景がそこにある。

時間と空間と季節が気象現象と光のせめぎ合いでの中で遊んでいる。

そんな束の間の風景の中に身をゆだね、刻々と変化する世界を楽しみながら、

私は頭の中に広がる空想の世界を歩いている。

二つの世界が出逢う時一枚の絵が生まれる。

 

私の風景画と制作の手法について
 

 人は撮影した写真を見ることで記憶がよみがえります。私は撮影した写真を見ながらコンピューターで、その風景を描きます。しかし、描きたいのは、風景そのものではなく、呼び起こされた記憶です。それらは、光と空気の中で遊ぶ色彩であったり、風景に出逢って呼び覚まされた自身の中に眠る世界かもしれません。私は写真を見ながら、写真に映っらない物を描こうとします。ベジェ曲線で風景を一度パーツや色彩に分解し、再び組み合わせることで、再構築していきます。それぞれのパーツは、必ずしも具象的な形にはならず、単純化されたり、文様の様になったり、時には、飛び跳ねる単なる色彩の塊として表現されます。

 再構築された風景をコンピューター上で分版して原盤を作ります。それは、版画の様に刷り色ではなく、遠近の位置関係の5〜10枚のレイヤーに分けます。ベジェ曲線で描かれた原板としての絵にはサイズは存在せず理論上、無限に大きくする事が出来ます。これらの原板から最終的なサイズを決定して、各レイヤー事に画像処理ソフトに出力します。さらに画像処理ソフト上で、空気や光を表現する為のレイヤーを間に幾つか挿入し、様々な気象現象の表現を試みます。すなわち、1枚の原盤で全く違った幾つかの気象条件の絵が出力可能になります。これは、私の記憶を絵の中に定着させる為の重要な過程です。それらの中から、私の記憶に一番近い状態のデータを保存し、最後にレイヤーを一つに合成する事により、一枚の完成したプリント作品が生まれます。

 

山とデザインとアップルコンピューターについて
 

 ゴンドラで八方尾根に登った時、山の魅力を知った。観光遊歩道を越えて、真っ白なガスの中の細い登山道へ消える独りの登山者がとても魅力的に思えた。この時、私の中に眠る記憶の断片が一つになり、未来へ繋がっていくのを感じた。その登山者の後を追いかけるように日本中の山々を歩く。近くの山から遠くの山へ。元気に頂上を目指して頑張る登山ではなく、気持ちの趣くままに、のんびり歩く。そんな山歩きが私のスタイルだ。

 昔から描かれた絵よりも印刷された絵に魅力を感じていた。ポスターや切手や絵葉書。観光としての風景や山の絵に心ひかれ、それらと空想の世界をだぶらせながら、イマジネーションの世界で遊んでいた。同時に、いつしか自分の描いた絵が印刷され、社会に出て行く事を夢見ていた。それは、グラフィックデザインの道に進むきっかけとなる。

 デザインと言う仕事は現実と向かい合いながら、夢や希望を未来へ繋げ、提案していく仕事だと思う。しかし、頑張って、現実に立ち向かうよりも、時にはゆっくり休息したり逃避する方が、心を健康に保つことが出来る。旅には本来そんな働きがあると思う。山はさらに日常性から解き離された世界だ。そんな静なるエネルギーが私の物づくりの根底にある。

 心が疲れていた時期、山は私を優しく包み込んでくれた。同時に誕生して間もない、アップルコンピューターとの出会いは、いつまでも現役のデザイナーとして歩き続ける為の希望を与えてくれた。単なる道具ではなく仕事と創作の良きパートナーとして信頼関係を築き上げながら、僕らは山に続く細い道をゆっくり歩いていく。

橋本修一

布に昇華プリント

紙にインクジェットプリント

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アーティストトーク

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