EXHIBITIONS

2010年 5月15日(土)〜5月25日(火)
橋本あやめ展
「World30×30」
Ayame Hashimoto Exhibition, “World 30×30”

アーティストステートメント
 

コンピューターの進化は仮想と現実との距離をますます縮めていきます。
3D映像が家庭と言う生活空間に入りつつある現在、夢や空想の世界は、バーチャルリアリティの名の元に、ますます現実感あふれる世界に生まれ変わっていきます。
そんな時代にあって、私は全く逆の方向での制作を目指しています。
決してリアリティを求める事なく、記号化された風景として表現する事で、自身の夢や空想を具現化してきました。それらは、現実と正面から向かい合うことによって生まれた作品ではなく、並外れた空想力や修練によって練り上げられた結果でもありません。

私の作品は意識的に現実から目をそらし、空想と現実のせめぎあう波打ち際で、ふと出現した幻のように、あやふやなバランスの上になりたつ白日夢の様な作品といえます。
思えば、私たちはかって、人生のある時代に確かにそんな波打ち際で遊んでいた経験があります。そんな懐かしい記憶がよみがえればよいと思います。
作品に使用する素材は板切れや針金、チラシの切り抜きといった、身の回りのごくありふれた物を使用します。日常において、ちょっと目線を変えるだけで、些細な事が小さな感動に生まれ変わります。
パートナーの橋本修一と続けている「地球に落ちているプロジェクト」からスタートしたこれらの考え方は私の制作活動の基本スタンスだと考えます。



作品鑑賞マニュアル

今回の作品は、30×30cmで切り取られた、独立した10の世界です。
空の中に逆さまに存在する羽根のある塔は、空と地上の世界をつなぐ架け橋です。
空という空間から世界を見おろし、それぞれの世界に入っていく為の10のエピソードを用意しました。しかし、それはあくまでプロローグにすぎません。そこには現実世界を表現したジオラマのような一定のスケールはありません。観客は自分の身長のスケールを自由に設定しその世界に入っていきます。また、そこには押し付けられたストーリーは存在せず、それぞれの世界での物語は観客が自由に思い描けばよいでしょう。
作品を見る順序、角度、立ち位置は観客にゆだねられ、旅人や観光客、あるいは出演者になり、独自の物語を思い描きながら順番のない絵本を開くように、鑑賞していただくのが正解だと考えます。   橋本あやめ>

 

 

 

橋本あやめ展 World30×World30
 

橋本あやめのインスタレーション、10の世界「World 30×30」はインカ文明の遺跡マチュピチュの空中都市を想起させる。90センチ、60センチ、30センチの高低のあるペダストールの上(30センチ×30センチ)に10の心象風景を現出させている。あるものは廃墟のようでもあるし、またあるものは、未来都市のようでもある。中空に橋本の心の秘境を具現しているかのようだ。

この縮減世界は、日本に昔(江戸時代後期)からある「箱庭」の現代バージョンといえなくもない。臨床心理学では、箱庭療法として被験者に心の風景を表現させ、その自己表現を通じて治療を施している。橋本の創り上げた「風景」は、あたかも無菌室で培養された純粋無垢な子供の心が産み出したように世俗の穢れが拭い去られている。

きらきらと輝く水晶石、ビーチガラス、海岸で拾った小石、白い貝殻、ボタン、白い砂など「少女の眼」で選らばれたオブジェがそれぞれの「風景」の中で自らの存在を主張している。針金で作られた星型のオーナメントや無造作に丸められた針金や針金で組み立てられた塔などは橋本の「風景」で重要な役割を果たすのだろう。中でも、「星」は頻繁に「風景」に登場する。これらは橋本の心を読み解くメタファーなのであろう。

数箇所、木片によって組み立てられた建造物がある。中には建物の中から階段が宙に向かって伸びているかと思えば、屏風のように空間を仕切るような壁面だけのものもある。また、翼を装着し、天に突き上げるように組み立てられた塔のような建造物もある。透明の半球を伏せたドームの中には星が封じ込められている。目を地と壁面に移せば、オプティカルなパターンや神秘的な青い透明な窪みが地を覆い、選ばれたイメージやオブジェが壁面をコラージュしている。視覚的に工夫が施され、橋本のイラストレーターとしての感覚が遺憾なく発揮されている。

これらの世界を構成する物体の思いがけない取り合わせや奇妙な建築空間や現実には存在し得ない風景の中に橋本はメタフィジカルな世界を暗示している。キリコの絵画のようなシュールな要素はないが、日常生活の隙間に「少女の眼」で心の秘境を構築している。それぞれが独立した世界を作り、橋本の世界が象徴的に表されている。

「World 30×30」は観客がその象徴を読み解くことによって物語が生起する。このように外部から知覚され、動的な観客によって物語は生成される。少女マンガが隆盛を極める今日、橋本は「少女の心」をメタフィジカルな世界に結晶できる稀なアーティストである。

             

コンテンポラリー アート ギャラリー Zone 代表 中谷 徹

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アーティストトーク

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